宵の間にほどよく敷いて置いた夜具の中に、誰かが寝ている。
枕許には大小が置いて、その上に黒い頭巾が投げ出してある。そこで若い老尼は全く立ちすくみました。もう、あっという言葉も出ません。
ところが、この奇怪きわまる侵入者は、苦しそうな声を出して、
「御免下さい、あんまり疲れましたから、それに恥かしながら飢えに堪え兼ねて……」
と言いました。
「え、何でございますか」
無意識に若い老尼が言葉を返しますと、
「お腹がすいたのです」
こいつ、あの餓鬼草紙の二の舞をやっている。餓鬼草紙から脱け出した老婆は、大釜を背負い込んでいたが、この餓鬼は釜の代りに大小を持っている。
「それは、お困りでございましょうがなあ」
「疲れはしたし、お腹はすいたし」
どうも、さもしい。お腹がすいた、お腹がすいたと、あまり繰返さないがよろしい。武士は食わねど高楊枝とも言い、腹がへってもひもじうないと言う。それだのに……
この物騒な侵入者は、物騒なわりに気が弱過ぎる。
作り声ではない、ほんとうに疲れきってもいるし、飢えきってもいるし、或いは疲労以上の、飢餓以上の、瀕死《ひんし》の境にいるのではないかとさえ見
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