に向ったのは、その戸の外で、縁の近くに忍び寄った、外からの何者かの気配があるからです。
 昨晩、花尻の森から人魂《ひとだま》が飛んだのも、ちょうどこの時刻でありました。

         六十三

 今までは、内からさした魔であるのに、こんどのは、まさしく外からさした魔でなければならない。
「あっ!」
と、総身《そうみ》に水をかけられたように、立ち上った途端に、硯《すずり》の水をひっくり返してしまいました。机の上に書きさしの紙がべっとり、せっかく六道能化《ろくどうのうげ》まで来た校合の上に、硯の海が覆《くつがえ》って、黒漆の崑崙《こんろん》が跳《おど》り出します。
 あわててそれを拭き、それを取りのけ、それをあしらい、しているうちに、また机の前へ坐り直しはしたが、ぞくぞくとして寒気《さむけ》がこうじ、肌がこんなに粟になる。
 おぞけをふるうという心持。誰ぞ外へ人が来たらしい。
 見廻すこの室の内、僅かに八畳の間、周囲の襖《ふすま》は名ある絵師に描かせた花野原。
 絵に見る花野原をかきわけて、いまにも人が出そうでならぬ。
 これではいけない、多年の平家物語の校合《きょうごう》も、せっか
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