をかき集めて、その釜の下へ火を焚きつけました。
「婆さん、お前、これから飯を炊《た》こうというのかい」
「はい、お腹がすいて、どうにもこうにもやりきれませんから、御飯を焚いて腹ごしらえをして、それから、また出かけようと思います」
「そうか、では、ゆっくりおやりなさい、火が焚きついたら、拙者もあたらしてもらいましょう」
「さあさあ、どうぞ」
竜之助は、この婆さんの側に立って、釜の下に手をかざしながら、つまり、アメリカの大統領と同じような炉辺閑話の形式で、問答をはじめました。
六十一
「婆さん、お前ドコから来た」
「はい、大原の寂光院から出て参りました」
「なに、大原の寂光院?」
寂光院と聞けば、美しい尼さんがいるとのことだが、いやはや、見ると聞くとは大きな相違、見るわけにはいかないが、気分でちゃんと受取れる、老いさらばえた上に、お腹がすいているんでは問題にならない、と竜之助が手持無沙汰になっていると、老婆は頓着なしに、
「寂光院の水仕《みずし》をつとめておりましたが、なにしろ、お腹がすきましてねえ、あなた」
ねえ、あなたもないものだ、お前のお腹がすいたかすかな
前へ
次へ
全386ページ中284ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング