たという山科の骨董商なるものを、この密談の席へ入れるらしい。してみると、その骨董商なるものも、只者ではないことがわかります。只者であった日には、この密談の席へ通されるはずはないと思われるが、しかし、事実はかえって天下の志士でなく、郊外の骨董商であるから許されるのかも知れない。この時分、もはや密談は終って、おのおの好むところの書画骨董の余談にうつり、その潮時に出入りの骨董屋が来たというので、無雑作《むぞうさ》にお目通りを許されたものとも見える。まもなく、三太夫に導かれてこの席へ姿を現わした山科の骨董屋なるものを見ると、これが意外にも光仙林の不破の関守氏であろうとは……
 不破の関守氏というのは、前身が相当の曲者であってみると、さては、お銀様を説き立てて、名画名蹟の蒐集ぐらいでは芝居が仕足りない。洛北岩倉村へ集まる、この辺の役者を板にかけて、脚本の製作をたくらんでいるとすれば、こいつも大伴《おおとも》の黒主《くろぬし》に近いが、果して、さほどの大望を抱いて来たのか、或いは、山科の骨董商になりきって、このお邸《やしき》のお出入り商人たるを以て甘んじて御用伺いに来たものか、その辺はわからない。
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