われます。
 岩倉三位は鍬を杖にしたままで、まだ庭先に立っている。

         五十六

「天下の風雲をよそにして、菊を南山《なんざん》に採《と》るという趣があります、お羨《うらや》ましい境涯です」
と大久保が、岩倉三位の手ずから丹精の小庭と、その手にせる鍬を見て、こう言ってお世辞を申しますと、岩倉が、
「必ずしも左様な風流沙汰ではないよ、この鍬で、今その風雲のとばしりを少しばかり鎮《しず》めたところだ、あの小山を見給え」
と指しますから、庭の一隅を二人が見ると、そこにまだ土の香の新しい土饅頭《どまんじゅう》が一つ築かれてあるのであります。
「何ぞお囲いになりましたか」
「たった今、ここの玄関へ怪しげな壮士|体《てい》の者共が押しかけて、わしに献上と言って、玄関へ何か置きはなして行った、取調べてみると、人間の片腕が一本、まだ生々しいのが、三宝に載せて置いてある、不潔千万だから、今、それをここのところへ埋めたばっかりだ」
「何ですか、人間の片腕を三位のお玄関へ、それは物騒な奴があったものです」
「生首でなくてまだ幸い――ここへ埋めて念仏をしてやったところだ」
「何者の生腕《なまう
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