か、象でも鬼でも一ひしぎと、和藤内《わとうない》の勇気を取戻し、身構えをして見ると、それはやっぱり犬の一種だということがわかりました。
 犬ならば、いかに猛犬なりといえども、猛獣ではない。しかもその豪犬の首には、太やかな縄を引きまとい、それを引摺《ひきず》り、こっちへまっしぐらにやって来るのを、兵馬はやり過して簡単にその縄を引止めると、同時に犬は猛然として兵馬に飛びかかって来たけれど、それは、危害を加える意味の抵抗ではなくして、人間に対する挨拶としてもたれかかって来たということが、直ぐにその気合でわかります。これはいい授かりものが迎えに来てくれた、一番これを囮《おとり》にして、門内へ入り込もう、逸走した邸《やしき》の番犬を繋留して連れ戻って来てやるということになれば、家宅侵入の罪名に触れること決してこれなく、且つまた、感謝をもって受入れらるること、これも相違なし。
 そこで、兵馬は、その大犬の轡《くつわ》を取りつつ、徐々《そろそろ》と光仙林の門内に進入して、林にわけ入り、道なきかと思われる跡をたどって、ついに草にうずもれた不破の関守氏の隠宅の前へ来て、改めて柴折戸《しおりど》を叩くと、
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