らえたおひねりをそのまま帯の間へ突込んでしまって、そのあとを追いましたが、この時、もはや女王様は、廊下舞台の欄干に立って、一心に三宝院のお庭をながめているところであります。
 三宝院の庭は、京都に於ける名庭園の一つであります。いや、日本の国宝の一つとして、世界的に名園の一つであります。音に聞いてはじめて見るお銀様には、大なる興味でなければなりません。名園の名園たる所以《ゆえん》の常識は、お銀様の教養の中には、もうとうに出来ている。お銀様が余念なく、自分の眼と頭によって余念なく名園を観賞し、解釈しているところへ、お角さんの社交的儀礼をすげなく、すり抜けて来た小坊主が、早くもそちらに立って滔々《とうとう》と説明をはじめました――
「これなるは有名なる醍醐の枝垂桜《しだれざくら》、こちらは表寝殿、葵《あおい》の間《ま》、襖の絵は石田幽汀《いしだゆうてい》の筆、次は秋草の間、狩野山楽《かのうさんらく》の筆、あれなる唐門《からもん》は勅使門でございます、扉についた菊桐の御紋章、桃山時代の建物、勅使の間――襖の絵は狩野山楽の筆、竹園に鴛鴦《おしどり》、ソテツの間、上げ舞台、板を上げますと、これが直
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