、記入して来られた方が来られないよりも、むしろ気持のよい世界的の社交関税、通称を「チップ」と呼ばれるところのものの労力に対する報酬、ある場合には敬意を含めたところの意志表示なのでありましたが、この小坊主は、前のかぶり物御免に対しては相当の黙認を与えたけれども、後者の関税闇取引に対しては、断然それを拒絶して、お角親方の好意を無にしてしまいました。つまり、同行の女性が特殊の事情によって、面《かお》に覆面を施しながら間毎を通過するという特権を黙認したのは、これは一種の同情心がさせるわざなのでありました。儀礼を重んずべき女性として、あえてこの無礼を忍ばなければならない事情というものは、他よりは本人が苦痛とするところでなければならぬ。それを押して行こうという事情には、よくよくのものがなければならぬ。そこに小坊主も暗黙の間の同情心が発揮されたと見えるが、白い紙でこしらえた社交関税は、すげなくお角親方の手から拒絶して、押しつけるその手先をかいくぐるようにして、早くも先に立って、お庭先の舞台の方へ逸出してしまいましたから、さすがの親方も、すっかりテラされてしまいました。ぜひなくお角さんは、せっかくこし
前へ
次へ
全386ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング