のに相違あるまい。それが西で事を挙げると、こっちは東にいて相撲が取れる相手は覚王院の義観だという見立ては、当るにしても、当らぬにしても、後学のために会って置いていい坊主だ、そういうような気分で神尾主膳は、程遠からぬ、根岸からつい一足上りの上野の山へ今日も出かけて行きました。
 その留守には、お絹がおとなしく待っている。
 誰も来ないとなると、閑の閑たる根岸の里。お絹は大丸髷《おおまるまげ》に手拭を着せて、主膳の居間の掃除をはじめました。
 神尾主膳の居間は、らんみゃくです。王羲之《おうぎし》もいれば、※[#「ころもへん+楮のつくり」、第3水準1−91−82]遂良《ちょすいりょう》もいる、佐理《さり》、道風《とうふう》もいるし、夢酔道人も管《くだ》を捲いている。自叙伝のようなものと、このごろ書きさしたその原稿も散らばっているし、そこらあたりは、さんざんの体でありますが、これは主膳が、ことわって、うっかり手をつけさせなかったという理由もあるけれど、二人ともに無精《ぶしょう》ぞろいのさせる業でもありましたが、今日は、すっかりそれを掃除して、一点の塵もとどめぬようにこの一間を清算してしまいまし
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