憎い松だ、手は下さないけれども、人命を奪う奴、所詮この松があればこそ人が死にたがるのだ、ことにこの枝ぶりが気に食わぬ、こいつがにゅうとこっちの方へ出しゃばって、いかにも首をくくりいいように手招きをしていやがる、こいつが無ければ人は死ぬ気にならんのだ、怪しからん奴、憎い奴、と言って、岡野は君子人だが、その君子人が刀を抜いて、首くくり松の首くくり松たる所以《ゆえん》の、そのくくりよく出ている松の枝を切りかけたんだ。
そこで、おれが、あわてて、これこれ岡野、松はういもの辛《つら》いものというから、松を憎がるのはいいが、その松は世間並みの松と違って、公儀御堀の松だぜ、一枝《いっし》を伐《き》らば一指《いっし》を切るというようなことになるぜ、めっそう重い処刑に会うんだぜ、それがいやだから、みんな松は憎いけれども、伐るのが怖い、よって今まで、こうして人命殺傷をほしいままにしつつのさばっているのだ、君にしてからが、めっそうなことをすると、前途有為の身体《からだ》に縄がかかるぜ、と言って聞かせると、岡野が、
「なあに、お咎《とが》めがあるならばあれ、いやしくも人命を奪う植物をそのままには差置けぬ、罪
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