三十六
そこまでは無事でしたが、その会談が七ツ下りの時分に、二三子のほかに、もう二人、新面《しんがお》の客がはせ加わったことが、神尾主膳にとって運の尽きでありました。
「これは、これは」
と言って、双方ともにテレたのは、こっちは神尾主膳だが、相手は土肥庄次郎であったからです。
「珍しや、神尾主膳殿、御壮健で」
「これは土肥庄次郎、その後はどうした」
この男だけが、初対面でなかったのです。いずれは神尾に近づきのあるくらいだから、相当のシロモノではあろうけれども、昔の悪友という因縁ではない。実はこの男の祖父は、一橋の槍の指南役で、この男も祖父に就いて槍を学び、槍に就いての交りもある上に、その当時、悪友としてのよしみ[#「よしみ」に傍点]も浅からぬ方であった。
土肥庄次郎の父を半蔵と言い、祖父を新十郎と言い、これは御旗奉行格大坪流の槍の指南役であった。その仕込みを受けて、あっぱれ免許皆伝の腕となり、槍を取っては、神尾のいい稽古相手であり、同時に悪所通いにかけても、負けず劣らずの腕を振《ふる》っていたものだが、土肥は遊ぶことに於ては、神尾に引けをとらないが、神尾ほどアクドイ
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