を廃業している、こうして涯《かぎ》り知られぬ海上をうろつく、これが本当の浪人じゃ、浪人という字は浪という字を書く、陸上にさまようているのは、あれは浪人ではなく、牢人と、人を囚《とら》える牢という字を書いたものもあるが、海上から見ると、陸にいる人は牢にいる人と同じかも知れない、陸にいてはいくら自儘《わがまま》だといっても窮屈じゃ、限度という格子に必ず突き当るが、そこへ行くと、海上は無制限だ、海上には、海上の自由があるな、たしかに。だから海上に漂う身になってみないと、真の浪人の味はわからぬものだ、つらいことも無制限だが、楽しいことも無制限だ。人間として、人間の制限を受けるのはいやなものだな、お松さん、そうは思いませんか」
「それはおっしゃる通りでございます、陸にいると、海にいるとでは、人間の気象が自然に違って参ります」
「制限のなき世界、制限なくしておのずから節度のある世界、節度を人から強《し》いられず、自ら楽しんで傲《おご》ることなき、そういう世界が望みで、わたしはこの船の旅に出ました、わたしはもう人の上に立つことはしない、人の下に忍ぶこともしない、お松さん、君が、もしまた、このわたしを
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