そなたも月に浮かれて来ましたか」
「はい、ちょっと、海へ出て見ますと、あんまりすばらしいお月夜でございますものですから」
「まだ、みんな騒いでいますか」
「ええ、皆さん、大よろこびで、あの分では夜明しも厭《いと》いますまい」
「そうですか、それは本望です、そういう楽しみをしばしば与えてやりたいものだ、我々がいると、かえって興を殺《そ》ぐこともあるかと、実はそれを兼ねて少々席を外してみたが、外へ出ると、またこのすばらしい光景だものだから、つい、うっかり遠走りをやり過ぎて、いま、戻り道に向ったところです」
と駒井は、いつもの通り沈重《ちんちょう》に釈明を試みました。その時にお松は、この場の悪くとらわれたような羞恥の心が、自分ながら驚くほど綺麗に拭い去られて、ずっと駒井の傍へ寄ることを懼《おそ》れようとしませんでした。
 そうして、駒井の後ろに従うような気分でなく、それと相並んで歩きたいような気持に駆《か》られました。
「殿様、どうして、わたくしがあの木蔭にいることがおわかりになりまして?」
「ははあ、それはわかるよ、こうして月に浮かれてそぞろ歩いているとは言いながら、なにしろ、はじめての無
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