った鳩ではあるまい
隅にばっかりかがんでおっては
根ッから詰らぬ
大名の頭《かしら》か、芋の頭か
なんだかかんだか少しもわからぬ
今度は天下の安危に関《かか》わる
肝心かなめの大事のところだ
腕を捲ってふんぱつしなさい
  チャカポコ チャカポコ
    チャカポコ チャカポコ

仙台、南部や津軽の爺さん
ムクムクしないで何とか言いねえ
たとえお国は山の中でも
これまで度々《たびたび》お江戸へ参覲《さんきん》
少しは世間が知れたであるベイ
天下の大事は御家の大事だ
それとも西国奸徒の野郎に
頭を叩かれあやまる所存か
グニャグニャ、グニャつく蒟蒻野郎《こんにゃくやろう》だ
ことに仙台
お前のお家の先祖は高名
二百余年の静かに治まる
天下泰平の先祖は政宗
天下の諸侯を一手に引受け
いくさを致すといわれた度胸に
皆々屈服したではないかえ
それに何ぞや今の始末は
あんまり手ぬるい
万石以上の四十八館《しじゅうはったて》
槍先|揃《そろ》えて中国征伐
一手に引受けふんぱつしなさい
金はなくとも米はたくさん
蒸汽でどんどん積出すものなら
国は忽《たちま》ち天下有福
これからふんぱつ、一旗揚げれば
天下に敵する諸侯はあるまい
徳川中古の回復諸侯と
あっぱれ言われろ
しッかりしなさい
  チャカポコ チャカポコ
    チャカポコ チャカポコ

次には会津の蝋燭親方《ろうそくおやかた》
お前はほんとに忠義なお人だ
四五年このかたふんぱつ勉強
二十余万の僅かなお高で
かくまでするのは感心感心
今に奸徒が鎮静したらば
百万石には請合いなるぞえ
なおなおこの上しッかりやらかせ
因備《いんび》の腰抜け、呆《あき》れたものだよ
お前は眼前、今の君にはまことの兄弟
それに何ぞや、奸徒に一味と世間の風聞
不忠不義のお人であるぞえ
家来不足で処置ができぬか
僅か一国、二国に過ぎない
国の政事が行き届かぬとは
生きて甲斐《かい》なき間抜けの親玉
いッそ、死んだが何よりましだよ
  チャカポコ チャカポコ
    チャカポコ チャカポコ

阿波の野呂麻《のろま》も、やっぱりそうだよ
土佐の奸徒にブルブルふるえて
ヘイヘイあやまり
奴同様《やっこどうよ》にさるるはなにごと
お前のお家は立派な生え抜き
尻をはしょって、やっきとやらかせ
福井の坊ちゃん、何していなさる
ことに一旦、政事を執ったる
肩書御所持の御身じゃないかえ
今の騒動はお前がベラボウ
諸侯の奥方、国もと住居《すまい》と
やらせたことから起ったことだよ
お前は元来立派な御家門
何はさて置き出でずばなるまい
向う鉢巻、七ツ道具をしっかり背負って
腕も砕ける奮撃突戦
矢玉を冒《おか》して進まにゃなるまい
それができぬは、やっぱり腰抜け
グズグズなさると首が飛びます
天下の人民、挙《こぞ》ってにくむぞ
肥前の御隠居、昼寝をなさるか
天下は累卵《るいらん》、危うくなったよ
出かけて騒動鎮めて下さい
今まで尽した忠義の廉々《かどかど》
ここでたゆむと水の泡だよ
会津に劣らぬ文武のお人だ
なにぶんお頼み申すとあるぞえ
  チャカポコ チャカポコ
    チャカポコ チャカポコ

肥後の親玉、これも同様
惜しいことだが砲術開けぬ
しかし日和《ひより》を見ていちゃいけない
今度の争議を治めて下さい
黒田の親方、グズグズしないで
早く出ないか、五十二万の高禄|貪《むさぼ》り
何していなさる
まごまごなさると
腰抜け仲間と人が言います
長崎警固も厳しくしなさい
薩摩に渡すと笑われ草だよ
雲州と姫路は何しておいでだ
お二人さんとも立派な御家門
中国山陰、押えの大名
しっかりしないと切腹ものだよ
中国西海平定したらば
何とか御処置をせねばなるまい
まことに気の毒、笑止の限りだ
松山ふんぱつ、感心感心
早くに加勢にやるのがよかろう
福山どうした、銘酒を飲み過ぎ
酔ってはならない
砲術開いて先手を勤めろ
井伊や高田は先にも懲《こ》りずに
少しは鉄砲開くもよかろう
戦地に臨んで青菜に塩では困ったものだよ
先祖の武功も水の泡だよ
錆《さ》びた刀や、へら弓ばかりじゃ叶わぬ世の中
主家の大変、何と思うぞ
ばかげた野郎だ
こいつも、やっぱり死んだがよかろう
  チャカポコ チャカポコ
    チャカポコ チャカポコ

藤堂《とうど》の爺《おっ》さん、早く出ないか
慶長頃まで五万の小禄
当家に仕えて三十余万の
国主といえども御譜代同様
国の異名《いみょう》にひとしき親方
貰うばかりが能でもあるまい
関西諸侯の旗の頭《かしら》が
聞いて呆《あき》れて物が言えねえ
讃岐《さぬき》の高松、大和の甲斐さん
枝も鳴らさぬ泰平の浮世に
十万余石の高禄貪り
家来に文武の世話もなさずに
飲み食いばかりに世の中送るは
虫けら同然
高を差出す仲間の頭だ
そんな心
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