じゃ腹も切れまい
縄をたよりに首でも縊《くく》って
死んだがよかろう
上杉親方、お前は感心
譜代恩顧の人とは違って
大きなお高を取られたお前が
先年以来の忠義はなかなか
諸人の及ばぬところでござるぞ
佐竹の親方、お前もやっぱり
高を取られた仲間の者だが
今度の大変、非常の場合だ
恨みをさし置き勤めて下さい
  チャカポコ チャカポコ
    チャカポコ チャカポコ

尾張の太郎さん
大きなベラボウ
神祖以来の三家の頭と
言われるおん身が
先年以来の御処置はなにごと
宮のおやまの瘡毒《そうどく》身に染《し》み
癩病病《らいびょうや》みとはなんともかんとも
たとえ様なき家来の奴ばら
塒《ねぐら》に離れた烏じゃあるまい
うろうろまごつき
カアカア言っても仕方がないぞえ
寝惚《ねぼ》けなさんすな
お附の御家老
紀伊さんなんぞは感服者だよ
一同|挙《こぞ》って兵隊こさえて
天下に忠義を尽していなさる
  チャカポコ チャカポコ
    チャカポコ チャカポコ
  チャカポコ チャカポコ
    チャカポコ チャカポコ

水戸の甚六《じんろく》、困ったものだよ
副将軍と言われるお人が
一国さて置き
半国ばかりの政事ができぬか
家来は不服で四方に分散
お前もまことに摺古木野郎《すりこぎやろう》だ
高を差出し
十万余りの賄《まかな》い貰って
引込み思案が相当だんベエ
  チャカポコ チャカポコ
    チャカポコ チャカポコ

それはさて置きゾロゾロいなさる
閣老参政その他の役人
分別ついたか
因循姑息《いんじゅんこそく》も時によります
歌舞伎芝居の上使の壱岐さん
田舎《いなか》ざむらい、役には立たねえ
ちんぷんかんぷん、お臍《へそ》で茶が沸く
先年、長州先手の総督
九州大名指揮するなんぞと
出かけたところはべら棒によけれど
知恵がなくって了簡《りょうけん》なくって
お尻が早くて長崎なんぞへ
かけおちなどとはまことに呆れる
江南小児の遼来遼来《れろれろ》どころか
それとはかわッてあかん弁慶
屁《へ》でも景清、外道《げどう》の大将
天下の人民、挙って笑うぞ
唐《から》の真卿《しんけい》、杲卿《こうげ》が忠勇
画像を拝した張巡《ちょうじゅん》見なせえ
皆これ天下の英傑だんベエ
これこそ天下の将帥《しょうすい》と言われる
それに何ぞや賊の旗の手
見るか見えぬにブルブルふるえて
兵士を振り捨て一人で欠落《かけおち》
馬鹿と言おうか臆病と言おうか
文盲滅法《めくらめっぽう》、河童《かっぱ》の屁のよな
腐った根性、譬《たと》え様なき
摺古木野郎だ、首でも縊《くく》って
死んだがよかろう
  スチャラカ チャカポコ
    スチャラカ チャカポコ

困る佐賀さん、呆《あき》れた縫《ぬい》ちゃん
下から経上《へのぼ》る平山図書さん
浅野の御隠居川勝先生
これらもやっぱり学者の生酔い
漢語交りの言葉を用いて
書附なンぞはよしてもくんねえ
机に向うて詩文の研究
山ほど書いても役には立たない
あっぱれ立派な物識《ものし》りめかして
事務策なンぞも無暗にやらかし
一《ひと》ッ廉《かど》天下の議論を述べても
社稷《しゃしょく》を助ける知恵がなければ
腐れ儒者だと孔明が言わずや
春秋左伝に通鑑綱目《つがんこうもく》
史記や漢書や元明史略《げんみんしりゃく》を
百たび見たとて千たび見たとて
生れついての馬鹿は直らぬ
鉄砲かついでピイピイドンドン
やったがましだろ
武侯の中流|呉起《ごき》が立策
七十余城を一時に落した楽毅《がっき》が行い
よくよく目をつけ考えみなせえ
野呂間《のろま》じゃ天下の助けはできない
ナポレオンでもワシントンでも
天下を治める技倆は格別
なかなか及ばぬ、勉強しなせえ
  スチャラカ チャカポコ
    チャカポコ スチャラカ

稲葉の兵六《ひょうろく》どうしたもンだよ
腰抜け仲間のよぼよぼ親爺《おやじい》
海軍総督、聞いて呆れる
敗軍相当な臆病だましい
船に乗ったら嘔吐《へど》でもするより
ほかにはなンにも働き出来まい
まだある、淀さん、川越親方
グズグズしてるとお江戸が危ねえ
四五年かかって、ようよう仕上げた
歩兵はお暇《いとま》
倹約なンぞとお為ごかしに
旗本苦しめ金納なんぞと
でかした揚句に半高《はんだか》取上げ
融通にしたるは何のためだエ
今が今まで兵士も出来ねえ
金が有っても兵士がなければ
軍《いくさ》は偖置《さてお》きなンにもできまい
かくの如くの斗※[#「霄」の「雨かんむり」に代えて「竹かんむり」、第3水準1−89−66]《としょう》の小人
集まり挙《こぞ》って政治を執る奴
内憂外患一時に起ッて
今にも知れねえ天下の累卵
これから俄《にわ》かにガヤガヤ騒いで
太鼓が廻って触《ふれ》が廻って
兵士がはいって小隊前へと
号令かけても何が何
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