おびしめ》の色から、甲掛脚絆の外れから、惜しげもなくはみ出して見せるところに、七兵衛が思わず見とれて、そうしてまた思いました、
「ここにも娘盛りがいる、今はまだいいけれども、そのうちに、と言っているのでは遅くなる、何とかしなければならない、何とかしてやらなければならない、何とかするといっても、もう世界は限られているようなものだから、いずれは、この組の中の誰かに合わせてやらなければならない、そのうちに当人が誰を好くとか、誰ぞがぜひにとか望んで来るものがあるに相違ない、打ち出してそう言えないうちに、それを見てやらなければならないのは年寄の役だ、だが、危ないものだなあ」
と七兵衛が、年寄心で、それからそれと取越し苦労に耽《ふけ》って行く。
「危ないというのはほかではねえ、この国には男が多くて女が少ない、少ないというよりは、まだ男の数は、そうと、十三人を数えるけれども、約束済以外の女といっては、まあこの娘と乳母《ばあや》――は、これはもう一度卒業したんだから、明いているといえば明いているが、初物《はつもの》とは言えねえのだ、してみると、取引のできる女というのは、お喜代坊ひとりだけなんだ、十三人の男に一人の女、しかもそれが、はち切れそうな娘盛りと来ていちゃあ、これは只事じゃあ済まねえなあ、こいつ、この国での一番の考えごとだぜ」
七兵衛の苦労は、そこまで及びましたけれども、それはただに取越し苦労ではない、火がそこまで燃えさかって来ているようで、おっつけ、この女の持主というものを確定してやらないことには、その暗黙の競争者で火花が散る。苦労人の七兵衛は、この問題を、島に於ける最初の、しかも最大の難問題のように思われ出してきました。
競争者が出来た時に、一方に与えて一方に与えなければ、すぐに生命《いのち》がけの問題になる、ということを、苦労人の七兵衛が考えないわけにはゆきません。そうしてみると、今のうちに、すっかりこの娘の持主をきめてやって、他の者は手が出せないものだという観念を、みんなに持たせてしまわなければ事が遅い。これは考えている時じゃない、眉《まゆ》に火のついた問題だと、七兵衛はせき[#「せき」に傍点]立ちました。
お松の方は、あれで大安心。いいか、悪いか、それは知らないが、もうあの女の運命はきまったから、あれは、これ以上に心配してやるがものはない。これからはこの娘だ、今夜は一晩、寝ずに考えてやるぞ、と七兵衛が、じっと思い入れあった時に、どやどやと皆が出動して来ました。
三十二
その晩、七兵衛は、無名丸の方へ廻って船番がてら、船で一夜を明かすことになりました。
広い船室の中に、たった一人で、思う存分考えてやろうとしたのは、今朝、天幕の中でじっと見据《みす》えた、あの体力のハチきれそうな、おぼこの娘の身の上のことでした。
それを考えると、自分というもののこし方も、おのずから考えられるので――
「ああ、おれも考えてみると、女房では苦労をさせられたんだなア、苦労をさせられたというより、女房のために一生を誤られたと言ってもいいかも知れねえ。なあに、そんなことがあるものか、自分というやつの手癖足癖が悪いから、こうなったに相違ないが、嬶《かかあ》が良かったらこうならずに済んだかと思われるのも、まんざら愚痴じゃあるめえ。あいつお土産つきでおれのところへ来やがったんだが、そいつはおろしてしまって、次のやつが出来ようという時に、男と逃げた、それから、おれがグレ出したというようなもんだが、女というやつは、どっちへ廻っても油断がならねえなあ。その後、おりゃ、女という方にはさっぱり綺麗に、よくもここまで通して来たもんだ、悪い事ぁするが、その悪いことも性分でやってるので、意地でやるわけじゃねえんだ、因果なことに、盗むのが面白くって面白くって、世間が隙《すき》だらけで隙だらけで、だまって見ていられねえから、ついちょっと手が出る、手が出ると、足が物を言うので、ツイツイここまで盗みを商売にしては来たものの、その上り高で、道楽を一つするじゃなし、お妾《めかけ》を一人置こうじゃなし、時たま旨《うめ》え酒を飲んで、旨え物を食ってみるくれえが関の山なんだ。女房のほかには、女てやつにさっぱり慾がなかったなあ、今日までそれで通して来たんだ。考えてみると、おれは盗人《ぬすっと》さえしなければ、聖人のようなものだ、盗人にならなけりゃ、相州の二宮金次郎になっていたかも知れねえ。だが、おれの初手《しょて》の嬶は、あいつは今どうなっていやがるかなあ、嫁入前に男をこしらえて、お土産つきで来るような奴だから、娘時分には、男も一人や二人じゃなかったろう、どうせ、水呑百姓のおれんとこへ、まあ、鄙《ひな》には珍しいというくらい、渋皮のむけた奴で、おれのところへ来るの
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