の手練に、二分の怒気を含めて投げるのですから、敵いかに多勢なりとも、面《おもて》を向けることができません。面を向ければ、多武《とう》の峰の十三重の塔と同じく、向いたところが満面銭で刻印されてしまう。
額へ当れば額、頬っぺたへ当れば頬っぺた、縦に来た時は箆深《のぶか》に肉に食い入ろうというのだから、この矢面には向うべくもない。加うるに、この弾丸はなかなかに豊富で、むやみに掴投げにしてさえこの一袋は相当の使いでがあるのに、これを適度に使用されてはたまらない。左に持った一掴みの中から、右手で一枚を抜き取って、その片面にしめりをくれる。
「総花にフリ撒《ま》いてやるというのに、そう遠慮するなら今度ぁ、狙撃《ねらいうち》だぞ、それその前につん出た三ぴん野郎! こっちへ向け、そうら、手前のお凸《でこ》の真中へ、一つお見舞」
と言って、はっと気合をかけると、予告の通り三ぴん氏の額の真中へ、寛永通宝子がぴったりと吸い着く。
「そうら見ろ、お次ぎはこっちの三下野郎、イヤにふくれた手前の赤っ面の頬っぺたに一つ――こんにちは」
と言う言葉の終らぬ先に、なるほど、三下氏の頬っぺたに吸いついた文久通宝子、まるまっちい蝙蝠安《こうもりやす》が出来上る。
「その昔の、おいらの先祖の鎮西八郎為朝公《ちんぜいはちろうためともこう》じゃあねえが、お望みのところを打って上げるから申し出な、頭痛、目まい、立ちくらみ、齲歯《むしば》の病、膏薬《こうやく》を貼ってもらいてえお立合は、遠慮なく申し出な、そっちの方の大たぶさの兄いが、イヤに物欲しそうな面《つら》あしておいでなさる、ドレ一丁献じやしょうか、そうら!」
空《くう》を切って飛んだのは、今度は名代の当百《とうひゃく》。以前のよりは少々重味があって、それが物欲しそうな大たぶさの耳の下をかすめて、鬢《びん》つけの中へ、ダムダム弾のようにくぐり込んだのだからたまらない。
「あっ!」
と、自分で自分の髪の毛をかきむしってとび上りました。
「そうら、こちらの方でも御用とおっしゃる」
今度は一っ掴み、数でこなしてバラ蒔いて、
「あちらの方でも御用とおっしゃる」
指の股へ四枚はさんで、四枚を同時に振り出すと、それが眼あるもののように飛び出して、相手四人の顔面へ好みによって喰いつこうというのだから、眼も当てられない。
「こちらの方でも御用とおっしゃる」
恵方《
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