かみそ》へつけさせて食べてみますと、どうしても秋茄子の味でございますから、これは只事ではねえぞ、さあ村の人たちよ、饑饉年が来るから用心しなさいと言って、その晩、夜どおし触書《ふれがき》をつくって諸方へ廻して、皆の者に勧めることには、明地《あきち》や空地《くうち》は勿論のこと、木棉《わた》を植えた畑をつぶしてもいいから、作《さく》をつくりなさい、蕎麦《そば》、大根、蕪菁《かぶら》、にんじんなどをたくさんお作りなさい、粟《あわ》、稗《ひえ》、大豆などは勿論のこと、すべて食料になるものは念を入れてお作りなさいとすすめ、御自分では、穀物の売物があると聞くと、なんでもかまわず、ドシドシ買入れ、お金が尽きた時は、貸金の証文までも抵当に入れてお金を借入れ、それで穀物を買い、人にもそのようにおすすめになりましたが、なにをそんなに二宮様がおあわてなさる、と本気にしなかったものもあるでございましたが、先生を信仰する人は、おっしゃる通りにやって、大助かりに助かったそうでございます。
なかには二宮先生の、そのお触書を見て、直ぐに馬に乗って先生をおたずねして、その仕方を丹念に聞き取ってから、村々をお諭《さと》しになって、木棉畑をつぶし、お堂やお寺の庭までも、蕎麦や大根をお作らせなさいましたお奉行様もありましたが、下野《しもつけ》の国の真岡《もうか》近在は、真岡木綿の出るところですから、木棉畑がうんとある、せっかくのその畑をつぶして、ほかの作物を作ることをイヤがる人が多いには、先生も困ったそうでございますが、その時に先生が、それではあきらめのために、木棉畑のいいところを少し残して置いてみなと、所々へ一反ぐらいずつ木棉畑を残させてみますと、秋になって棉実《わたのみ》が一つも結ばないのでなるほどと、はじめて感心したそうでございます。
すべて、大偉人の言うことは、聞いて置かなけりゃなりません。わしらは、二宮先生のような大偉人ではございませんが、用心をしてしそこないということはございませんから、皆さん、何をさし置いても饑饉の御用心をしてお置きなさいませよ。
それには、ハト麦なんぞは至極よろしいでございます。種子が入用ならば、わしんところへ言っておよこしなさい。蒔《ま》き方がわからなければ、わしが教えて上げますよ。もし人手が足りなければ、わしが行って手助けをして上げますからね。
それからもう一つ
前へ
次へ
全193ページ中177ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング