条件で拝伏して聞いていた。無論、大先生のおっしゃることなどが、自分の頭で理解のつく限りではないから、ただ有難くお聞き申していただけだが、それが今日になって、ありありと出て来て、実際の手引をして下さるとは夢にも思っていなかった。
「貧乏は、この世界の最もよい教師だということを忘れるなよ」
 してみると、自分の貧乏は苦にならない。いや、いっそこの貧乏が郁太郎様にもよい教師――果して、そういうものか知ら――どうもわからないが、大先生のおっしゃるお言葉にムダがあろうとは思われない。してみると、教育のために自分たちは最も恵まれていればとて、不足の身ではない。そういうようなことを、与八は考えて安心しようとしましたが、一面には、自分の頭に余り過ぎて考えられないものですから、その度毎に、痴鈍な自分の頭脳《あたま》を振って、一も二も昔のことを考え出し、大先生のおっしゃったお言葉の節々《ふしぶし》を思い起し、ゆっくり考えて、考え抜いてみようと与八が覚悟をきめました。

         七十七

 さて大菩薩峠「山科の巻」はこれを以て了《おわ》りとします。念のため、本巻に現われた人の名と、その所在の地名と
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