、今にはじまったことではないのです。これが昨今になると、一層、身にこたえて来たようで歯痒《はがゆ》い。
この女だけが、親爺の残してくれた唯一の遺産だ、いつも、神尾がこの女にさわると、むらむらとそれを受身にとって来る。この女は父の寵者《おもいもの》であった、父のお妾《めかけ》であった。今日となっては、父祖以来残された財産とては何一つ身についたものはない、いや、財産だけではない、父の代から出入りの恩顧を受けたという者共が、誰ひとり寄りつきもしないのに、この女だけが、自分の影身についていてくれる。忠義でかしずいていてくれるわけでもなかろう、切っても切れない腐れ縁の一つかなにか知らないが、それにしても、広い世界に自分の身うちといっては、考えてみると、この女ばっかりだったなあ。
神尾主膳はこの女を母とは、どうしても思えないが、姉とは受取れる。姉としては、いかさまふしだらな、甘ったる過ぎた姉ではあるが、姉の気分はいくらか滲《にじ》んでいるというものだ。姉の愛といったようなものを幾分ながら漂わせて、これを尊敬して見るという立場ではない。なあに――親爺の寵者《おもいもの》だ、親爺の召使の一人だから
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