、
「あなた、何を読んでらっしゃるの」
不意に隔ての襖《ふすま》をあけて、スラリとそこへ立っているのは、今日は姥桜《うばざくら》に水の滴るような丸髷姿《まるまげすがた》のお絹でありました。
七十一
襖越しに突立ったままで、嫣然《にっこり》として、
「あなた、何を読んでらっしゃるの」
ずいぶん、なめた行儀であるけれども、神尾にはそれがおこれない。ビタにしたように、無雑作《むぞうさ》にはこの女が扱えない。
「うむ、なに、その、ちっとばかり読んでいるところだよ」
何を読んでいるのかと、これ以上はお絹が突っこまない。何を読もうとこの女には、読書というものが、あまり頭にない。
「ねえ、あなた――」
と、お絹が甘ったれた口調で言いました。甘ったれた口調ではない、これが本来この女の本調子なのですが、これを聞くと、神尾の血がグッと下って来る。
突立ったままの大丸髷で、だらしのない立ち姿をしながら、「ねえ、あなた――」それを神尾がおこれない。
こんななめきった行儀をされても、こんな甘ったるい言葉づかいをされても、つむじ曲りの神尾主膳が、どうしても腹を立つ気になれないのは
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