て、兵馬としては図々しく、
「うつの家の福松と言えば、すぐにわかることになっているのですが、では、ひとつお願い申しましょうかな」
と言って、自分のかぶって来た一文字の笠を取り直しました。そうして、矢立を取り出して、墨汁を含ませて、何をかしばらく一思案。それから、さらさらと笠の内側の一部分へ、
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思君不見下渝州
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さらさらと認《したた》めて投げ出したものですから、その筆のあとを、青年がしげしげと見て、
「ははあ、李白ですな、唐詩選にあります」
「いや、どうも、まずいもので」
青年は、うまいとも拙《まず》いとも言ったのではないのに、兵馬は自分でテレて、つかぬ弁解をしていると、
「いや、結構です、君を思えども見ず、渝州《ゆしゅう》に下る――思われた君というのが、つまり、そのうつのやの福松君ですな、福井の城下で、あなたとお別れになって、友情綿々、ここ越前と近江の国境《くにざかい》に来て、なお君を思うの情に堪えやらず、笠を贈って、その旅情を留めるというのは、嬉しい心意気です、友人としてこれ以上の感謝はありますまい、この使命、僕自身の事のように嬉し
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