は旅から旅を廻って歩くものです――」
「どちらが御生国なんですか」
「まあ、江戸ですね」
「江戸ですか、それは懐かしいです」
青年が懐かしいというのは、どういう意味かよくわからないが、多分、この青年には過去に於て江戸を懐かしがる何物もないけれど、これからの目的地として、懐かしがるべき理由が大いにあるというのでしょう。
六十
この青年と、かなりの長い談話をした後に、兵馬は、いざ別れようとして、
「君、福井へ帰るなら、一つ頼みたいことがある」
「何ですか、喜んで頼まれます」
「実はねえ」
と兵馬は、何と思ったか、自分のかぶっていた一文字の菅笠《すげがさ》を取って、
「申し兼ねるが、君のその笠と、僕のこの笠と取換えていただけまいか」
「え、僕のこのみすぼらしい饅頭笠と、あなたのその菅笠と、無条件交換ですと、僕の方が大きに儲《もう》かります、それでいいですか」
「いいですとも、君、ひとつこの笠をかぶって福井へ帰って下さい、僕は君の笠をかぶって近江へ行きたい」
「傾蓋《けいがい》の志ってやつですか」
「いや、そういうわけでもない、必ずしも君に対する志というわけではないが
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