と、ただ見る越前平野の彼方《かなた》遥《はる》かに隠見する加賀の白山――雲煙漠々として、その上を断雲がしきりに飛ぶ。今や雨を降らさんかの空に、風さえかけつけている。兵馬の眼と頭脳とは、はしなくも去って、あわら[#「あわら」に傍点]のいでゆの曾遊――といっても、たった今の朝、辞して出て来たその後朝《きぬぎぬ》のことに思い到ると、何かは知らず、腸《はらわた》がキリキリと廻るような思いが起って来ました。

         五十八

 福井を出立した宇津木兵馬は、浅水、江尻、水落、長泉寺、鯖江、府中、今宿、脇本、さば波、湯の尾、今庄、板取――松本峠を越えて、中河、つばえ――それから柳《やな》ヶ瀬《せ》へ来て越前と近江の国境《くにざかい》。その途中、鯖江を除いては城下とてはなく、宿々駅々も、表日本の方に比べて蕭条《しょうじょう》たるものでありましたけれども、それでも、歴史に多少とも興味を持つ兵馬は、もよりもよりの名所古蹟に相当足をとどめて、専《もっぱ》ら、北国大名と京都との往来交渉を考えたりなどして歩みました。そうして無事二十里の道を突破して、このところ、越前と近江の国境、柳ヶ瀬までの間、道の
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