くれましたね」
「いけませんの――思い直しは叶《かな》いませんの、では、あきらめます、いまさら、そういう未練は申し上げられないはずでしたのね、今晩一ばんだけの御縁――」
 あきらめられたり、あきらめ兼ねたり――女は三百両の大金の上へ、どっかりと身をくねらせて、やけ半分のような気持で、煙管《きせる》の雁首《がんくび》で煙草盆を引っかけて引寄せ、
「宇津木さん、あなたという人は、女の情合いは知ってらっしゃるが、女の意地というものがわかりませんのねえ」
「一通りはわかっているよ」
 兵馬も、自分が純粋無垢の青年だと誇るわけにはゆかない。その昔は江戸での色町で、相当な疚《やま》しい思い出がないとは言えないから、いささか恐れていると、女が、
「では、ほんの一くさり、わたしの身の上話を聞いて頂戴な、わたしののろけ[#「のろけ」に傍点]を受けて見て頂戴、今晩のは真剣よ」
 女は、もうまさしく畜生谷のほとり近い女にかえっている。兵馬はそれに怖れを感じ出しました。女はいよいよ自暴《やけ》気分に煙草を吹かしながら、
「身の上話なんて野暮《やぼ》なくりごとをやめましょう、未来のことを話しましょうね。それにし
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