も、例の、
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宮さん
宮さん
お馬の前の
ピカピカ光るは
何じゃいな
あれは朝敵
征伐せよとの
錦の御旗じゃ
ないかいな
トコトンヤレ
トンヤレナ
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の軍歌は、いよいよ明亮《めいりょう》を極めて、絶えず、前から襲って来たものですから、米友もつい、そのリズムに捲き込まれて、いい気になってしまい、歩調までが勇み足になった上に、
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トコトンヤレ
トンヤレナ
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と伴奏しはじめたかと見ると、興に乗じたか、提灯を地面に置いて、自分は道のまんなかに踏みはだかり、手にした例の振杖ではない杖槍を取って、中空に投げ上げ、それが落ちかかるやつを手早く取って受けては、またクルリと中空へ投げ上げる、右へ泳ぐのを左で受けたり、左へ流れるのを右で受けたりして、合《あい》の口拍子には、
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トコトンヤレ
トンヤレナ
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とはしゃいでいる。
 それに頓着をしない弁信は、委細かまわず突き進んで、やがて本街道から外れて、とある藪小路《やぶこうじ》に突き入ってしまいました。トコトンヤレを口ずさ
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