え、わかっているようでわからない、つい近い頃、大阪では天満《てんま》の与力内山彦次郎が殺されたというに、まだその犯人がわからない、江戸では、上使の中根一之丞が長州で殺された。ところでこの拙者などは、生来、悪いことは一つもしていない、たよりない宿なしの影法師同様な拙者を追いかけ廻して、いったいいくらになるのだ」
と竜之助からたしなめられて、源松はいよいよテレきった面をして、
「でございましても、病では死ぬ者さえあるんでございます、どうか、そこのところをひとつ、御迷惑さまながら、大谷風呂まで、その送られ狼というところで」
執拗《しつこ》い――がんりき[#「がんりき」に傍点]の百以上だ。百のはいたずらでやるのだが、こいつのは職務――ではない、病だ、うるさい、という思入れで、無言に竜之助が歩き出すと、
「エヘ、ヘ、送られ狼――こっちが気味が悪いんでございますよ」
かくて源松はまた、竜之助のあとを二三間ばかり離れて、薄尾花《すすきおばな》の中を歩みにかかる程合いのところで、またしても、
「あっ!」
と言ったのは、その、おどろおどろと茂る薄尾花の山科原の中から不意に猛然として風を切って現われた
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