で、現状維持のままに政《まつりごと》を一新せしめて行こうという案らしい。それが、無用の破綻《はたん》と摩擦を起さずして、しかして体制を一変し、新政の実を挙ぐるに最も妙用であると、土佐ではそう考えているらしい。そういうような意見と運動が、一藩の輿論《よろん》となっているらしい。それだというと、いわゆる公武合体のようなありふれた妥協でもないし、一面は一新の革新意識に触れているし、一面は旧制度の保守にも通じている、ちょっと、まともに反対しようがあるまい。この一藩の輿論の下に、土佐はまず幕府に向って大政奉還運動を働きかけている、徳川氏に向って、早く政権を朝廷に向けて奉還せよ、それが天下の大勢であるし、また徳川氏の社稷《しゃしょく》を保つ最も賢明の方針だ、大政奉還が一刻早ければ早いだけの効能がある、一刻遅ければ遅いだけの損失がある、ということを、あの藩の策士共はしきりに幕府に向って建議勧誘しているそうだ」
「それは利《き》くまい、三百年来の徳川政権を無条件で奉還する、いくら内憂外患|頻発《ひんぱつ》の世の中とはいえ、一戦も交えずして政権を奉還する、そんなことは将軍職としてやれまい、将軍職としては
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