い、あちらの方にいるかも知れません」
「左様でございますか」
猫をたずぬる主は手燭《てしょく》を点《とも》して来ましたが、それをかざして室内を照らそうとしたが、室内が広きに過ぎて光が隈なく届きません、そこで、おもむろに一足、また一足、いずれにも尋ぬる物の体が一目には見出し難いものですから、ややもすれば消えなんとする手燭を袖屏風《そでびょうぶ》にして、また一足、また一足、怖い人穴の中へ忍び入るような足どりも、愛するもののため故の勇気で、その愛するものというのが、人でなくして猫であるだけの相違でした。でも、かよわい女が、この夜中に、知ってか、知らずにか、こういう物凄い気分のひそむ室内へ、独《ひと》り忍び入るということも、愛すればこそで、その怖る怖るの一足一足が、どうしたものか、竜之助の寝ている方へ近寄って来ました。
途端に、よろよろして、よろけたものですから、細い腰が一たまりもなく崩折れて、そうして、まともに寝ている竜之助の上へ、身体《からだ》の全部を以て落ち倒れかかったものですから、全く夢を破られぬわけにはゆきません。
今までは、夢であったり、うつつであったり、特におでん燗酒《かん
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