重姫――お八重ちゃんという娘を、これに娶《めあ》わせたのは、親としてしかるべき心づかいだ。且つまた、なさねばならぬ義務を果したのだ。そこで、それがそのまま、市《いち》が栄えれば何のことはないが、恋愛というものは生死《いきしに》なんだ、失うか、得るかよりほかには、妥協というものが利かないんだから、やりきれない。父の定めた伉儷《こうれい》が成立してみれば、自分の作った恋愛はあきらめなければならぬ、それをあきらめると、当然一人の犠牲者を出さなけりゃならぬ、この場合の失恋者が、とりも直さず官女の朝霧なのだ。彼女は深く恨んだ、その結果が、食物を断って死んだ――
 その辺を語る時に尼は、さめざめと涙を落していたようだが、似つかわしい新夫婦のために同情せずして、不義の交りを楽しんでいた官女に同情を持つところが怪しからん。何か身につまされるものが深かったればこそだろう。おれは、そういう事は世間にあることで、また有り得ることだ、世間の神仏にある取りとめもない誇張の縁起物語と違って、失恋の結果、自分の生命を断つということは自然であって、無理でない、恋というやつは、それを失っては生きられないものだ、という理
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