した。
今まで、それを思い出さなかったのはどうしたものだ。
あの女が盗《と》ったのだ、あの女が、泊り合わせた美僧と美女の情合いを嫉《ねた》んで、美僧がかけて置いた釘頭《ていとう》の財《たから》を、そっと奪って隠したればこそ、二人は命を失った、財を奪うは即ち命を奪う所以《ゆえん》であった。
その金は、天竜寺の和尚とやらの手許の金であったというではないか、生仏を地獄に落したほどの女が、人の恋愛の糧《かて》を盗み得ないと誰が言う。
憎い女、二人を殺したその財布の行きどころは確実にあれだ。
竜之助は、むらむらと、その心に駆《か》られてみると、敵を外に求めてさまよい歩き出して来た自分を、少なからずうとましいものに思いました。
庫裡《くり》へ帰れば女がいる、憎い女がいる。老禅師を失脚させ、その愛弟子《まなでし》の命を奪った女が、猫を抱いて眠っている。それを追究することをしないで、何をこんなところへきてうろうろしていたのだ。
「帰る、月心院の庫裡へ帰る」
ほどなく、堂前を辞した竜之助の足どりは、宙に浮ぶが如く、月心院をめざして戻って来たが、庫裡へ戻って見ると、獅噛《しがみ》の火鉢に火は
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