が、木津の新在家《しんざいけ》へ来て、はじめて気がついたことは、昨晩、月心院の庫裡で、後生大事の財布を柱にかけてかけっぱなし、忘れてはならないはずのものを忘れて出て来た、はっ! と顔の色の変った時はもう遅い、それを取戻すべく立戻れば身が危ない、このまま行けば身が立たない。
 二人は、その運命の怖ろしさと、師にそむき、戒にそむいた現罰が、あまりにも早く身に報い来《きた》ったことに戦《おのの》いて、とうとう、そこで、相抱いて木津の川へ身を投げて死んだ。
 それからというもの、月心院のあの庫裡では、夜な夜な若い男女の、世にも悲しい泣く音が洩《も》れると、白い細い手が柱から壁、壁から長押《なげし》と撫で廻しては、最後にまた絶え入るばかり、よよと泣き沈む……
 そういう伝説が、パッと縁無き世間にまで広まりわたっている。
 右の一条の物語を尼さんから聞かされて、はじめて竜之助も、さる因縁もありつるものかな、と思いました。聞いてみれば、哀れでないという話ではないが、そうした行き方は世間にはザラにあることだと、例によって竜之助の同情がつめたい。つむじが意地を巻いて心頭に上って来たが、やっぱり挨拶の都合
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