目には見えなかった。
 見えないのが当然であるようで、また見えないはずがないともおもわれる。よし、今晩、立ちかえったら改めて見直してみよう。そういうものが見えるか見えないかは、眼の問題ではないように疑われて来たものですから、竜之助の足はここにありながら、頭は月心院の座敷に戻っておりました。そこで、尼への挨拶には、何ともつかず、
「実は、拙者も、つい昨今あれへ参ったものでござってな、いやもう、殺伐《さつばつ》な壮士共と雑居を致しておりまするから、化け物の方も出る隙《すき》がなかったものでしょう、それが今晩あたりから、急に人が減って静かになったので、常例で出るものならば、改めて出直しの幕があるかも知れない、立戻って篤《とく》と見直しと致しましょう」
 こんなことを返事してみました。

         四十二

「いや、元はと申しますとたあいもないことでござりまするが、起りは斯様《かよう》な訳合《わけあい》でござりましてな……」
 竜之助が現象は見たが、事実は知らない人だということに気がついて、堂守の尼さんが、次のような一条の物語を語って聞かせてくれました――
 天竜寺に、若い一人の美僧が
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