ついて見ると、またしても斎藤一がいない。島原でも出し抜かれ、ここでもまた置去りを食ったことに苦笑いをしながら、竜之助は枕をもたげて、何をか思案しました。

         四十

 斎藤がいないことを知っただけで、竜之助はそのまま起き上ろうともせず、再び寝込んで眠りに取られてしまいました。それからまた眼が覚めた時は、もう暗くなっておりました。つまり、一日を寝通したのです。暗いから寝て、暗いところまで寝通したのですが、さてそれは、他人にとっては昼というものを全く超越してしまったことになるのですが、この人にとっては、人生に昼というものがないのですから、飛躍でも超越でもなんでもありません。
「ああ、また夜が来たな!」
 歎息とも、自覚ともつかない認識は、視覚以外の感覚ですることであって、時間というものを光によって区別せずして、勘によってするまでのことで、おおよそ何が夜の何時《なんどき》であり、昼の何の刻であり、あるいは昼と夜のさかい目、人間に於てたそがれという時、蝙蝠《こうもり》に於ては唯一の跳梁の時間――ということまで、枕を上げた瞬間にちゃあーんとわかる。
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朝寝し
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