、ついには相手かまわずの八つ当りとなってしまいました。
こうなって来ると、衾《ふすま》の上に就眠の体勢にこそついたが、眠れなんぞされるわけのものではない。いよいよ昂奮しきってしまって、斎藤は罵《ののし》るべきを罵って快なりとしている。
だが、程経て、これは、ひとり気焔を揚げているべき場合ではない、話の最初は、自分の相手方になって、自分の昂奮を冷然として倦《う》まず引受けているその相手方に向って、近藤勇に会え、と簡単に勧誘を試みたことから出立しているのだと反省してみると、そこで昂奮がおのずから静まり、
「とにかく、そういうわけだから、君も食わず嫌いを避けて、一度近藤勇に会って見給え。君を近藤に会わせたからとて、一味に懐柔しようということではない、また懐柔されるような相手でもなし、懐柔したところで結局、こっちが厄介者――ただ、世間の奴等の誤解と、誤解を誤解として放任するのみか、その誤解説の伝播宣伝を目的とするやからが横行しているから、それが残念で、誰でもいいから、一人でも認識を新たにする奴が出て来れば、こっちの腹が癒《い》えるというものだ。どうだ、ひとつ会ってみないか」
ここで、話は
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