ろまで送ってもらおうか」
「芹沢様とおっしゃいますのは」
「芹沢鴨、いま名うての新撰組では隊長だ」
「ああ、その芹沢先生ならば……」
 轟の源松は、仰山らしく声を上げて、
「芹沢先生は、お気の毒なことに殺されました」
「殺《や》られたか」
「ええ、まことにお気の毒なことで、あの剛勇無双な先生でも、災難というものは致し方がございません」
「いったい、芹沢は誰に殺《や》られたのだ」
「それがその――隊の方の評判によりますると、長州の者だろうとのことでございますが、なあに、そうではございません。では何者だとお聞きになると困りますが、薩摩でも、長州でもございません、ちゃあんと犯人はわかっているのでございますが、申し上げられません」
「お梅はどうした」
「ああ、あの女は――美《い》い女でございましたが、芹沢先生と一緒に殺されましたよ」
「人の女房を奪ったのだそうだな」
「女房ではございませんそうで、菱屋太兵衛のお妾《めかけ》だそうです、太兵衛に代って掛金の催促に来たのを芹沢先生が、いやおういわさず、ものにされてしまったというが本当らしいのでございます――芹沢先生と、あの美い女と、二人寝ているとこ
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