村正がついに悲鳴を揚げました。
「こいつは堪らぬ、降参降参」
白旗を掲げたけれども、聯合軍はその誠意を認めないらしく、どうしても息の根を止めなければ兵を納めないらしい。
「拝む、拝む、この通り」
そこで、聯合軍もいくらか胸が透いたと見えて、
「ごらんなさい、拝んでるわ」
「拝んでるから、許して上げましょうよ」
「その代り、もう、この人は戦争に入れないことにしましょう、決して手出しをさせないことにしましょう」
「それがいいわ」
「では捕虜なのよ、捕虜はここで、これを持って、おとなしく見ていらっしゃい」
と言って、一人が有合わした雪洞《ぼんぼり》を取って、長柄の銚子を持たせるように、しかと両の手にあてがったのは、捕虜としての当座の手錠の意味でしょう。
無惨にも捕虜の待遇を受けた村正どん、命ぜられるままに、柄香炉《えこうろ》を持つような恰好《かっこう》をして、神妙に坐り込んでいると、そこで、聯合軍がまた解けて、同志討ちの大乱闘をつづけてしまいました。
その騒々しさ、以前に輪をかけたように猛烈なものになって、子供とは思われない悪戯《いたずら》の発展。
この騒動で、すっかり忘れられてい
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