くなる酔客ではない、酔ってますます蒼《あお》くなる性質の飲み手であることはわかっているが、すべての応対のうち、一度も眼を開かないということが一つの不愉快だと思いました。いかに爛酔の客といえども、これだけに筋の立った発言ができるのである、いかに酔眼とは言いながら、これだけの物を言う間には、一眼ぐらいは、ちらとでも開いて、そうして、相手の方面を、たとえ上眼づかいになりとも見やって置いて、それから舌なめずりでもして物を言うのが、生態上しかくあるべきはずなのに、この人は、ちっとも眼を開かないで、こっちを見ないで、こっちを相手にしている。いわば眼中に置かぬあしらい方であることが不愉快だと、村正氏もその途端に相応にそれに悪感《おかん》を催したのです。
「では、少々御免を蒙《こうむ》って、お邪魔いたすとしようかな、皆の者も、ここでしばらく遊んで行きな」
切上げようとして、かえって深間へ入り込んで来たのは通人に似合わぬ不覚でした。
村正氏を先に立てて、一隊十余人の雛妓《こども》は、有無なくこの一間に進入して、そうして、これから遊ぼうという、全く遊びたくない気分で遊ばなければならない。
雛妓たちは
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