出でるお喋り坊主から、今晩に限ってこんなにあしらわれると、米友もいい心持がしない。そこで、今度は少し語調が荒っぽくなりかけて、
「弁信さん、何と言ってもはいはいでは、あんまり気がねえじゃねえか、ちったあ[#「ちったあ」に傍点]張合いのある返事でもしな」
「そういうわけではありませんのです、米友さん、悪くなく思って下さいな」

         四

「お前《めえ》のことだから悪かあ思わねえがね、話しかけた方の身になってみると、はいはいだけじゃあつまらねえこと夥《おびただ》しいや」
「では、米友さん、お話し相手になって上げますから、もっとお話しなさいな」
 改まってそう言われると、さて何から話し出していいか、米友が少しテレる。
 米友が少しテレたので、弁信が仕手役《してやく》に廻りました。
「米友さん、私は今、考え事をしていたところなんです」
「何を考えていたんだ」
「いろいろのことを」
「いろいろのことと言えば……」
「それは世間のことと、出世間のことと――人間並みに申しますると、眼で見える世界のことと、眼で見えない世界のこととを考えておりました、人間並みではこれが二つになりますが、私
前へ 次へ
全402ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング