は、いま海道筋へ現われたところを、もう一応とくと見直しさえすれば、すぐにわかることで、第一、この夜中に子供が二人で、こんなところを夜歩きをするはずがないではないですか。
前なるが寒山子《かんざんし》、後ろなるが拾得《じっとく》、どこぞの宝物の顔輝《がんき》の筆の魂が抜け出したかと、一時は眼をみはらざるを得ないのですが、再度、篤《とく》と見直せば、左様なグロテスクではあり得ない。現実生命を受けた生《しょう》のままの二人が、今し海道筋に出ると共に、ひたひたと西へ向って歩み出したことは、前に机竜之助がしたと同じことですが、柳は緑、花は紅の札の辻へ来てからにしてが、あの時の妖怪味はさらに現われず、また一方、その前日にあったことの如く、追分を左に山城田辺に、お雪ちゃんだの、道庵先生だの、中川の健斎だのというものを送って、女軽業の親方が、さらばさらばをしたような風景もなく、二人は無言のままで、静粛な歩み方をして、深夜の東海道の本筋を西に向って行くのですから、ここ何時間の後には、間違いなく、京洛《けいらく》の天地に身を入れるにきまったものであります。
今日この頃は、京洛の天地に入ることの容易なら
前へ
次へ
全402ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング