器用な男もあったもんだ、ありゃあれで、なかなか苦労人だよ」
「はい、それに、なかなか気前がようおまして……」
「だから、女に相当騒がれるだろう、あぶないものだぜ、お宮さん」
 冗談半分に、女中を相手に関守氏が聞き得たところによると、右の手なしの番公は、最近ここへ雇われて来た男ではあるが、早くも女中たちの人気を取っているらしい。相当にこの道で苦労した肌合いが、女中連を騒がせていることをも知りました。
 関守氏は、一応お宮さんをからかった末に、こう言いました、
「あの若衆に一ぱいあげたいから、手隙《てすき》になったらここへ来るように言っておくれ」
 そう言っている口の下に、外の縁側から声がかかって、
「少々御免下さいまし、先刻お風呂の旦那様のお座敷は、こちら様でございましたか、三助でございますが、お忘れ物を持って参上いたしました」
「え、なに、忘れ物を持って来てくれたのかい」
 関守氏がなんだか先手を打たれたような気分で、こちらが少々あわて気味です。

         十九

 その翌日、ここへ来てから第四日目――
 今日は関守氏が、逢坂山の裏手から細道伝いに、大谷風呂の裏口へ下りて来て
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