見ますと、小屋があって、その中で、地がらの米を舂《つ》いているのが例の三助の三蔵でありましたから、言葉をかけました、
「三蔵どん、御精が出るね」
「はい、有難うございます」
野郎は頬かむりをして、しきりに地がらを踏んでいましたが、本来この小屋の一方には、渓流を利用して小さくとも水車が仕掛けてあって、一本ながら立杵《たてぎね》が備わっている。水力でやりさえすれば足で踏まなくともいいことになっているのに、わざわざ時間と労力を空費しているとしか見られないものですから、不破の関守氏がたずねました、
「どうして水車を利用しないんだね、万力《まんりき》で搗《つ》けば早いだろうに」
「それが、旦那、そういかないわけがあるんでござんしてな」
「車がこわれたのかい」
「そうじゃございません」
「当時流行の渇水というやつかな」
「なぁーにごらんの通り一本杵《いっぽんぎね》を落すだけの水はたっぷりあるんでございますがね」
「じゃ、どうして水車をつかわないんだね」
「まあ、聞いておくんなさいまし、水車があっても、水車を使ってはならない、水車|御法度《ごはっと》というお触れが出たんでござんしてね、それで、利用
前へ
次へ
全356ページ中101ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング