のがあたりまえなのですが、それをそうと素直に受けることのできないことが、この女の持つ重大なる不幸でもあり、生存の根拠でもありましたのです。同時に、この女王はこの書物を征服しなければならないという憤りを発しました。この人は早くから世をすねている、人に面《かお》を合わせることを憎んでいる生活が内面に向って、書を読むことは読みました。おそらく、お銀様ほどの年頃で、お銀様ぐらいの読書家はなく、そうしてその読書の範囲に於ては、曲りなりにも自分の見識の立たなかった書物というものは、まず今までになかったのです。四書五経の如きも一度は目を通したことがあるに相違ないのですが、今日ここで単独につきつけられてみると、ほとんど歯が立たない、というよりも、手も足も出ないのです。文字そのものが異った国の文字であるならばとにかく、文字そのものだけは、立派に読みこなすことができて、意味らしいものが、どうにもこうにも掴《つか》めないことをお銀様は憤激しました。
この憤激がお銀様を、無二無三に易伝の中へ突入させましたけれども、いよいよ進んで、いよいよ相手にされない。相手にされないだけならまだしも、相手を征服できないこと
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