は、同時に自分が征服されるという意地であってみると、もはや我慢ができない。お銀様は易を読みながら創痍満身《そういまんしん》になりました。
「ああ、これは読み直さなければならない、今日まで人間の力で読みこなした人がある以上は、わたしにだって読みこなせないはずはない、もしまた本来、何もわからない出鱈目《でたらめ》が書いてあるものとすれば、これが千年も二千年も世の中に残っているはずはないから、この中にはきっと、人間の中の千人に一人か、万人に一人でなければ理解のできない奥深い真理が籠《こも》っているに相違ない、もしそうだとすれば、自分もその千人に一人か、万人に一人の人になってみなければならない――」
 易《えき》にぶっつかって創痍満身のお銀様が、辛《から》くもここまで反省したことは、さすがでありました。難解には難解に相違ない、いま読んで今わかるという本でないことはわかっている、だが、時日を与えれば、自分もこれをわかってみせる――という持久心を取戻したことが、お銀様のさすがでありました。
 そこで、お銀様は「周易経伝」の巻を伏せて、その一部四冊だけを別にこっちの経机の上に取って置いてから、次へと
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