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「乾 元亨利貞 初九潜竜勿用 九二見竜在田 利見大人」
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 何のことかさっぱりわからない。お銀様の学力を以てすれば、文字だけを読み砕くには何の不足もないが、こればかりは文字あるところに直ちに意味が附着して来るのではない。お銀様は何かしら憤りをこらえて、なお読み進んで行くと、
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「九三君子終日乾乾夕※[#「りっしんべん+易」、第3水準1−84−53]若※[#「厂+萬」、第3水準1−14−84]无咎 九四或躍在淵无咎九五飛竜在天利見大人」
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 いよいよ読み進んで、いよいよ何のことかわからなくなる。
 お銀様は憤りました。

         十二

 易《えき》を読んで、お銀様が腹を立つ、それは立つ方のお銀様が無理です。孔夫子でさえも、五十初めて学ぶという易を、女王様風情で物にしようというのが大ベラボウのもとなんですが、傲慢《ごうまん》と、呪詛《じゅそ》と、増長で持ちきっているこの女には、その分別がつかないのです。
 事実、わかるわからないは別として、現在お銀様には歯が立たないのです。立たない
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