い寄せられるように、物理的にその大きな潮流に吸い寄せられていると見れば見られるのでありました。そうして、意識せずに、考えが深刻に進みつつある時であります、次の間から、およそ時代とはかけ離れたおっちょこちょい[#「おっちょこちょい」に傍点]の声として、
「今日は、よいお天気で……殿には、御機嫌いかがにあらせられまするや、かねての大望、意志と教養の御著作――さだめて見事に御進行のことと拝察――鐚《びた》儀、芸娼院を代表してお見舞に罷《まか》り出でました」
「鐚か――」
こういう奴が来たので、神尾がうんざりしました。
六十
事を意識せずして深刻に考えたり、絶望に傾いたりする時、このおっちょこちょい[#「おっちょこちょい」に傍点]が来ると、とにかく、気分が発散したりする。善友も、悪友も、このところでは、おたがいにあんまり近づかないことになっているが、こいつばかりは臆面なくやって来るものですから、神尾も気紛れに相手になっている。なんらの理窟があるのではない、こいつの面を見て、およそ時代離れのした恥知らずをながめると、気分が発散しないという限りもない。
「鐚か――まあ、入
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