一城壁をなす人物なのだ。だから、話せば話もわかる男で、存外、御《ぎょ》し易《やす》いのだ。なにも彼を強《し》いて敵に取るには及ばない。相当に追従して置いて、適当の時機に利用するもまた妙ではないか。
 伊東甲子太郎は、こんなことを胸中に考えて、ほくそ笑みつつ、ふと手を掲げて、己《おの》れの持った提灯をかざして見ると、また一段と肩身の広いことを感ずる。
 畏《かしこ》くもこの御紋章が物を言うのだ。こうして深夜、大手を振って、昨今の京洛を闊歩できるというのも、一つはこの御紋章が物を言うのだ。おれを快しとしない近藤一味といえども、この提灯に仇《あだ》をなすことはできない。
 かくて伊東は、満ちきった気分を以て橋を渡りきって、いよいよ再三問題の、南側の火事場あとの板囲いのところへさしかかったのであります。
 これより先、この板囲いの中には都合五人の黒いのが隠れておりました。
 抜身の槍の穂先が、尖々《せんせん》と月光にかがやいている。刀の白刃が、鞘《さや》の中で戞々《かつかつ》と走っている。五人十本の腕が、むずむずと手ぐすねで鳴っている。
 その間へ、別の方面の板囲いの透間を押分けて、また一つの
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