ちりと水も洩らさず帯で結んでいたけれども、女も男も、いついかようになって人目にさらされようとも、強《し》いて剥奪するのでない限り、ちっとも醜態を現わさないように、裏から表までよそおいを凝らしていたということが、今でも賞《ほ》めものになっている。
 これを取巻が、この際、新発見でもしたもののように、そやし立てて、つまりあの心中は、遺書《かきおき》にも書き残してあった通り、女の一方が一つか二つか年上で、弟をいたわるように、心ならずも引かされて死んでやったと見るべきだから、万端の注意があの女の心一つで行届いていたということになって、女のたしなみの鑑《かがみ》でもあるかのように取巻が並べたので、
「いやに女の方にばかり肩を持ちたがるじゃないか」
と、またしても伊太夫から冷かされたが、それでも取巻は一向にめげず、
「全く、あの女子《おなご》はよい女子でしたねえ、こう、少し淋し味はありますが、それがかえって魅力でございまして……いまだに眼についてはなれません。実際、あれが生き返ったのですから、ただは置けない道理じゃございませんか、その当座はひとごとならず気が揉《も》めました」
 その当座だけではな
前へ 次へ
全356ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング