み難いかをさえ、てんで地理の理解がなかったことを思いやられる。ただ水に入りさえすれば死ねるものと心得て入ってみたが、さてここが死にどころというのが見当らなかった。浜辺に近いところ、遠浅のあたりを、より広く遠く、二人は抱き合いながら水に浸ってさまよい歩いた形跡があること、そうして、やっと深いところへ、この辺ならば沈むに堪えたところ、死ねるに違いないと思われるところにたどりついてはじめて身を横にして、やっと水の来《きた》り沈めるに任せていたという形跡もあったから、とてもそれは、二人相抱いて、高いところから落ち、一気に生涯を片づけてしまったというあざやかな手際にはいかなかったこと、全く無経験無知識な身の投げ方をしている――心中にそうたびたび経験や知識があってはたまらないけれども、それにしても幼稚極まる身の投げ方をしていたことが、見る人をいじらしがらせた。そうして、心中の仕方に於ては、さほど無経験無知識であったにかかわらず、そのたしなみに至っては、打って変って行届き過ぎるほどに行届いていたというのは、つまり、お角さんが、たったいま癇《かん》にさわったとは全く反対の行き方で、二人の身体こそ、がっ
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