。その証拠に、今、紗のように透き通った笠の前半を見ると、切れの長い眼が、真珠の水底に沈んだような光を見せていた。関の明神の下で、草鞋《わらじ》の紐を結び直したあの手もとを見てもわかる。眼の不自由な者に、あんな手に入った扱いはできない。
街道へ出て、人なき大道をこの人は、真直ぐに京山科方面へ向って、のっしのっしと歩んで行くのです。
その足どりは甚だ軽く、腰に帯びた大小の蝋色《ろういろ》もおだやかで、重きに煩う色はない。
行き行きて追分の札の辻まで来る。ここは朝のうち、伏見街道を行くお雪ちゃんと、両国手とをお角さんが送って来て、さらばさらばをしたところ。
「柳は緑、花は紅」の石標に腰打ちかけた机竜之助、前途を見渡すと夜色が京洛に立ちこめている。昼間に見たところでは、追分の辻から左右ともに、人家が櫛《くし》の歯のように並んでいたと覚えていたが、真夜中というものは、時代を一世紀も二世紀も逆転して見せるもので、風景もおのずからその時代の風景ではない。右手にながめる比良、比叡の山つづき、左にわたる大和、河内への山つづき、この間は一帯の盆地、京洛の天地はいずれのところにあるや、山科、宇治も見渡
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